11/26(土)公開『エヴォリューション』先行上映トークイベントに画家諏訪敦氏、「美術手帖」編集長岩渕貞哉氏登壇!

ルシール・アザリロヴィック監督の最新作『エヴォリューション』の先行上映イベントが23日、東京・品川区の原美術館で開催され、特別ゲストとして、精緻な絵画で知られる画家の諏訪敦氏と「美術手帖」編集長の岩渕貞哉氏が登壇。諏訪氏の創作活動の話を交えながら、本作が持つ“美しい悪夢”について激論を交わした。

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秘密の園の少女たちの世界を描いた『エコール』のアザリロヴィック監督が10年ぶりにメガホンを取った本作は、大人の女性と少年だけが住む絶島を舞台にした禁断のダークファンタジー。主人公の少年ニコラが描く“絵”が物語のキーになっているという岩渕氏は、「話よりも最初に“絵”があって、それをどう見せていくか、どう繋いでいくか、というところが、監督が大事にしているところではないか」と独自の見解を示すと、諏訪氏は、「前作の『エコール』はかなりお耽美でしたが(笑)、本作はテイストが全く違うもののやはり怖かったですね。僕は注射針が体に入っていくのを見られないタイプ。看護婦さんに“大丈夫ですか?”と声をかけられるほど」と意外な一面を吐露する。

その反面、「とても美しい映画、その正体を知りたい」と語る諏訪氏は、「監督はシュルレアリスムや日本映画からも影響を受けているそうですが、いろんな文脈があって、それが統合して、この美しさはできているのではないか」と推測。これに対して岩渕氏は、「試写会では“わかりにくい”という反応もあったようですが、お題を用意して、それに答えるだけじゃなく、単純に美しい映像、考えずに浸れる時間も貴重。説明が不要とは言わないけれど、この映画はそれほど必要としていない」と強調した。

また、イベント中盤には、スライドを見ながら、ETV特集「忘れられた人々の肖像~画家・諏訪敦“満州難民”を描く」というドキュメンタリーでも放送された諏訪氏の創作現場を紹介。旧満州に渡り、ハルビンの収容所に入れられ亡くなった祖母を再現して描こうというプロジェクトで、「現地に何度も足を運んで、様々な情報を基に5年間、制作に費やました。祖母には会ったことがないので、同じ年齢のモデルさんをデッサンし、まずは健康的な肉体を描き上げ、それを少しずつ削ぎ落としていった」と述懐する。

飢えと感染症で苦しんだ祖母を、絵の中で再び死に追いやるという作業を改めて振り返った諏訪氏は、「『エヴォリューション』の中でも、医療的な行為など、ある種の冷酷さというか、人間的な温かさを感じない“人でなし”のプロセスが描かれていますが、僕もそういう作業をしてきた感じはありますね」と吐露すると、岩渕氏は「最初に健康体を作り上げて、“絵の中で殺していく”というプロセスは、リアルに必要なもの」と諏訪氏の創作を称賛した。

なお、この日、イベントの舞台となった原美術館は、現在、写真家の篠山紀信展「快楽の館」が開催中(2017年1月9日まで)で、作品は全て同館をロケーションにした撮り下ろしの新作。この特殊な場所で本作を鑑賞したことについて岩渕氏は、「美術館の白い建物や佇まいが、劇中に登場する病院など様々なものを連想させてくれるので、本作を観るには凄くいいところ」とコメント。

一方、篠山氏の作品について諏訪氏は、「人間を撮ろうというよりも、自分の強度がある世界を魅せたいという意識が強いと思いましたね。力技というのはある種、崇高さに繫がることだからエンタテインメントとして楽しめましたが、僕は人間に関心があるので、共通点は皆無です」と持論を展開。これに対して岩渕氏は、「篠山さんは、女性を切り取って空間に差し込んでいる“生け花”だとご自分で言っていたのですが、なかなか言えないことですよね」と篠山氏自身の言葉を引用すると、諏訪氏が「生け花ですか!さすがに“人でなし”のスケールが違いますね、そこはリスペクトしたい」と語り、会場の笑いを誘った。

映画『エヴォリューション』は、2016年11月26日(土)、渋谷アップリンク、新宿シネマカリテ(モーニング&レイト)ほか全国順次公開!

詳細は、映画『エヴォリューション』公式サイトへ

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<プロフィール>

◆諏訪敦(すわ・あつし)
画家。プロジェクト化された絵画の特異さで知られ、綿密な取材に裏付けられた高密度な絵画は、対象に内在する社会的な問題を浮上させ、歴史に回収されない個の手触りを浮上させる。

◆岩渕貞哉(いわぶち・ていや)
『美術手帖』編集長。1975年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。2002年から『美術手帖』編集部に在籍、2008年より現職。2015年に立ち上げた、『美術手帖 国際版』およびアートニュースサイト「bitecho[ビテチョー]」の編集長も務める。

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