角川映画祭トークショーに、元宣伝プロデューサー(現、東映株式会社顧問)遠藤茂行氏登壇!【後編】

21日、角川シネマ新宿にて7月30日(土)~9月2日(金)にて開催中の角川映画祭に、『Wの悲劇』(1984)公開当時の宣伝プロデューサーだった遠藤茂行氏(現、東映株式会社顧問)が登壇しトークショーを行なった。あの時代だったからこそ仕掛けられた名宣伝手法の数々、薬師丸ひろ子らスターの素顔についてなど、秘蔵トークで場内大いに盛り上がった。MCは元キネマ旬報編集長・映画ジャーナリストの植草信和が務めた。当日会場で行なわれた大盛況のトークショー【後編】をダイジェストでお届けします。

◆トークイベント

遠藤:原作の『Wの悲劇』を劇中劇に閉じ込めて、舞台女優を目指す劇団の研究生という形で彼女に来てもらって、事件を引き受けることで彼女にも色々なチャンスがめぐってくる。そういう二重構造を押し込めていくという事にしましたので、それなら澤井さんが映画にできるということになりました。

最初の親の殺人を子供が引き受けるというのは、映画的になかなかリアリティーがないということもあって、監督も腰が引けていたと言いますか、それが二重構造にしたことによって、そういうことであればと言う事でそういう方向に持っていってくれた。二重構造にしてくれたという事で文字通り、当時の物語の主人公と同じような歳と設定で見事に演じきった作品になっています。

植草:これに出る以前の薬師丸さんは、女優を続けていくかどうか迷っている時期だったと思うのですが、この作品に出会う事によって女優を続けようという意志が伝わってくるように思いますが、それはいかがですか?

遠藤:うーん、どこまで言っていいのかですが・・・逆ですね。この作品をやったことで悩んじゃったんですね。「セーラー服と機関銃」等は、いわゆる女子高生役で、ほぼほぼ実年齢に見合ったものを選んでやってきたのですが、この作品では「1人の女の子、女性だったらどうするか?」が求められていました。客観的なヒロインではないのですね。各シーンごとに、「自分がやっていいのか?やりたくないのか?」が問われていました。歯磨きのシーンですとか、本当の薬師丸さんならやらないですよね。「おかしい」と本人は思うわけですよね。

でも、このヒロインはやって欲しいんだと言うことになりますと、当たり前ですが、薬師丸ひろ子ではなくて、主人公の女性の正義をそこに自分で入れ替えていかなければならない。女優さんと言うのはそこが大変なんですね。それまではそういう事を求められいない映画が多かったと思うのですね。オープニングも役の巾を得る為に、先輩と一夜を過ごす設定で、人間的にも役の巾も大きくなったんだろうなと思わせる設定。しかもああいう暗闇の中で、演劇論を交わす。これは普通の設定ではないですよね。本来自分がやってきた事とは明らかに違う、別の人間を演じるという事、究極で言うとラストカットに集約されている気がします。世良さんにカーテンコールをしていく、それがストップモーションになる。あのカットにどこまで泣いていいのか、どこまで笑っていいのかの塩梅というのが物凄く難しくて、何回もリハーサルされて、「泣きすぎ、笑いすぎ」が繰り返されて、僕ら現場にいてもグッとくるような感じで、この作品だけは本人の現場での奮闘ですとか苦悩とかが本当によく伝わってきたので、ラスト歓声のシーン、この作品をはじめて観終った時は、涙したことを覚えています。この作品は本当に丁寧に丁寧に作り、そして澤井さんと本人の中で戦いながら作った作品なので、「果たしてこういう事が毎回できるのか?」を含めて「女優を私は果たしてやれるか?」という事をちょっと悩んだ感じがあったと思います。

植草:この作品以前、以降では変わってきましたか?

遠藤:そうだと思いますね。それはご本人のみしかわからないところだと思いますが、学生さん役とか特殊な役に追い込まれた方がわりあい楽だったと思うのですね。ところが毎回毎回、自分とその役をどう折り合いをつけていくのかを彼女が毎回毎回考えなければならないので、いい意味で不器用な人だったので、そこのやり方に到達するまでは時間がかかっていたのではないでしょうかね。

植草:薬師丸さんに関しては色々なエピソードがあると思うのですが、角川事務所を離れた理由というのはどのようにお考えですか?

遠藤:そのことが一番大きな理由になっているのではないでしょうか。それまでは、学生さんでしたので夏休みと春休みの撮影で夏休み映画とお正月映画をやっていく年間2本ローテーションで、学校を1日も休まないで、ご本人の意志と周りもそれを尊重して、そういうスケジュールを組んでいたのですが、そういう事を含めて、そういうことじゃなくなっていったのではないでしょうか。

植草:その薬師丸ひろ子さんに続いて、後に出てきたのですが、原田知世さんなのですが、これは先ほどおっしゃられていたオーディションで出てこられのですよね。

遠藤:そうですね。グランプリは渡辺典子さんがお取りになり、彼女が審査員特別賞ということなりました。渡辺さんはどちらかと言うとかなり女優さんに近いクォリティーがあって、目力も凄かったです。原田知世さんはまったくそういうタイプじゃない今までにいないタイプの女優さんということで、多分審査員の目にうつったんだと思います。

◆戦国自衛隊の撮影当時を振り返って

遠藤:天神の地下街に入っていって地下のパネルがはってあるのですが、それをキャタピラがパタパタパタって全部剥いで行ったんですね。真っ青になりました。(会場笑)それとかフジテレビが当時『3時のあなた』という番組があってその生放送に合わせて、当時、まだ、河田町にフジテレビさんがあった頃、アーケードがあって、ラポルトという食堂がありまして、地下が空洞なのですね。業界人がそこでよく打ち合わせしていたのですが、そこを20トンが通るとつぶれるかもしれないと言う事で、鉄板を敷き詰めて負荷が分散するようにしてそれで『3時のあなた』のタイトルコールに合わせて戦車が自走してきて、正面玄関で大砲を撃つと。地元の警察にも「小さな音なんで大丈夫です。」って言ってたのですが、スタッフが張り切ったんでしょうね。とんでもない音が出て始末書と。(会場笑)あれはビックリしましたね。

植草:普通のサラリーマン生活ではあり得ないような貴重な体験ですよね。

遠藤:あり得ないですよね。とにかく「まともな事をやっていたら、まともなものしか見えないものをお客さんに見せても何も伝わらない。」って僕らは教えこまれていたので「まともじゃないことをやれ」というのが常にモットーとしてありましたね。それで今日までここに居るって感じですかね。

植草:今年、角川映画40周年ということで、遠藤さんは30年くらい関わっていたのですけれども、遠藤さんが今ここにいらっしゃるのはそういう体験を積み重ねた結果ということですよね。

遠藤:そうですね。今、ご存知のようにみなさん製作委員会というシステムで映画会社1社で映画を作るという事をほとんどやらない時代になってきましたので、角川さんとコラボさせていただいて提携という形で映画を撮らせていただいたり、そのうちもっと大きな製作委員会というのを作られてやったりしていく時代に角川映画に関わらせていただいたことで、今日の礎が作られたことは間違いないです。それは僕個人ではなく、80年代の映画界全体が大きなエポックメイキングな角川映画の功績というのが凄くありますね。

植草:今、おっしゃられていたよう製作のほとんどが、製作委員会という方式をとられて、民主主義ですから平均的な意見しか通らないようになってきているのですが、そのことが作品に突出したものが出なくなってきたように思いますが、そのあたりどうですか?

遠藤:それも1つの要素ですね。負の要素になると思います。元々映画を「当てるためのチーム作りをしよう」と「作るため」ではないですからね。ですから媒体を持っているところとジョイントして行こうという事になっていく。角川映画がやっていたことを後々フジテレビさんが始められたり。テレビスポットを多用することでテレビ局がドンドンドンドン進出してくる。角川映画を完全に勉強してくるわけですね。当然、角川さんと一緒にやられた会社さんもあると思うのですが、そういうテレビ局さんがそういうやり方を踏襲しているわけですよね。同じように映画会社が通常の映画宣伝費用だけで太刀打ちするよりは、出版会社を組んだり、代理店さんに関わっていただいたり、リスクヘッジもありますけれでも「映画を当てる」ということの為に媒体を広げていく、認知をしてもらう為の製作委員会というのが本来の姿だと思いますけどね。

植草:そうですね。そういう意味では40年の歴史を刻んだ、もちろんこれからも続いていくのですが、その偉大さというのはもっともとっと語り継いでいきたいですよね。

遠藤:やっぱり、こういう作品というのは今観ても色あせないっていうのでしょうかね。今日、みなさんに観ていただいた『Wの悲劇』なんて本当素晴らしい作品ですし、僕も今回のことがあって見直したのですが、細かいシーンに気が行ってるなぁってのもありまして、三田村さんがオープニングカットで最初の夜を過ごして翌日か翌々日に劇団に三田村さんがやってくる。そこで薬師丸さんが螺旋階段を汗を拭きながら歩いてくる。三田村さんを見ると薬師丸さんが、パッと肩に回していたタオルをフッと腰に巻くんですよね。ああいうシーン、普通やらないですよね。どういうことを意味しているかを澤井監督にしゃべらせたら1時間くらい喋りだすんで。(会場笑)こういうところをよく男性の監督が女性の生理を理解しながらやるんだなぁーと僕はビックリしました。『Wの悲劇』もそうですけれども角川映画を語るときりがないところありますよね。

植草:そうですよね。僕も東映でも色々な新入社員入ってきたりするとこの時代の話をしゃべって欲しいとよく言われますね。どうやらライブで観てるわけではないですよね。22、3才の子達は、この頃を生まれてなかったりしますので。でも、そういう時代の事を聞きたがってくれる。あまちゃんで小泉今日子さんと薬師丸ひろ子さんが共演するということもたまたま、僕が東映でやらせてもらったのがこの二人の二本立てだったものですから、「凄い、それ以来の出会いでした」って本人にも言っていただいて、色んな意味で時代がいい意味で繋がって行っているので、今の映画人の人達にも、常に先輩たちの良い物を継承していってもらいたいですね。

角川映画祭は、角川シネマ新宿にて絶賛上映中!

最新情報は、角川映画祭公式サイトへ

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