9月13日(日)映画『キングスマン』公開記念トークイベントに映画評論家 町山智浩 さんが登壇!007シリーズへの復讐愛考察を語る!

13日 (日)TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて、映画『キングスマン』公開記念イベントが開催され、映画評論家 町山智浩 さんが登壇した。

本作は、『キック・アス』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のマシュー・ヴォーン監督最新作。
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オスカー俳優のコリン・ファース主演、マイケル・ケイン、サミュエル・L・ジャクソンなど、名立たる名優が世界最強のスパイ機関の裏の顔を持つ高級テーラー「キングスマン」を舞台に活躍するスパイ・アクション映画。9月11日より全国公開中!

本作ををいち早く評価し、日本に初紹介した町山智浩さんの登壇とあって、映画ファン必見のトークイベントとなった。MCは、奥浜レイラさんが務めた。
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—映画『キングスマン』日本では、昨日、9月11日に公開になりましたけれども、アメリカだと2月15日に既に公開されていたのですが、町山さん、どのタイミングでご覧になりました?

町山智浩さん
「アメリカ公開で観ました。」

—どんな風にご覧になりましたか。

町山智浩さん
「スウェーデンの王室は怒らないのかと思いましたね。スウェーデンのお姫様は実在しますからね。名前は違いますけどね。日本でやったら大変なことになりますからね。」

—これはイギリス映画で、アメリカ映画に対する風刺みたいなのも入っていると思うのですが、実際、アメリカに住んでいる町山さんとしては、アメリカの評判とかはどのような感じなのですか?

町山智浩さん
「アメリカっていうのは、都市部の東海外N.Y.とかの人とサンフランシスコとかロサンジェルスとか西海外の人と真ん中の田舎の部分の人では、まったく別の人達なんでね。文化的に。この映画では、サミュエル・L・ジャクソンが、サンフランシスコ系の人達なんですよ。ITの長者で、ちょっとスティーブ・ジョブズ入っていますね。ヒップホップファッションで、しかもエコロジストで、いわゆる左翼系リベラル系の人ですね。それで完全に馬鹿にされていて、結局成り上がりだから、お金持ちになってもMac食べてやがるぜみたいな話になってるじゃないですか。でも、彼らが皆殺しにするのは、アメリカの南部の人達で、黒人差別主義者で、ゲイが嫌いでみたいな話があるじゃないですか。あれは、いわゆるアメリカの右側の人達、田舎の人達で、馬鹿にするどころか皆殺しですからね。しかもそれをギャグとして楽しいでしょ?みんなって撮ってるじゃないですか。右も左もみんな死ねって話ですから。これは、アメリカ人は、イギリスの野郎って思うでしょうね。」

—実際にアメリカではヒットしているのですか?

町山智浩さん
「それほどでもなかったようですね。イギリス野郎とか思ったんじゃないですか。」

—遠くから見ている私達は、本当面白いですけどね。

町山智浩さん
「横から見てるだけですからね。」

—昔のスパイ映画のオマージュたがくさん出てくると思うのですが、特に印象的だったり、ここがポイントって言うのが今回ありましたか?

町山智浩さん
「やっぱり007でしょうね。007ジェームス・ボンドものに対する嫌がらせのような内容でしょうね。まぁ、この二人が会話する時に、最近のスパイもんはどうもくそ真面目で面白くないなと。あれは、最近のダニエル・クレイグのジェームス・ボンドに対する嫌味ですね。昔の007ものは、『悪役の方が馬鹿げた世界征服のアイデアとか出してたのに』って言いますよね。それを本作では実際にやるんです。後、バーに行った時に彼がマティーニを注文する時にね。『ジンベースにしてくれ』って言うと、わかってるねって言うところがあって、あれは、ジェームス・ボンドがいつもウォッカベースでマティーニを飲んでるんで、『それ邪道だよ』『マティーニわかってない』みたいな嫌がらせなんですよ。あれも。」

—なんであんなに007に対して嫌がらせみたいなものを撮ったんですか。

町山智浩さん
「マシュー・ヴォーンは、007 カジノ・ロワイヤルの一作目の監督をするはずだったからですよ。逆恨みですよ。007 カジノ・ロワイヤルでやりたかった事、労働者階級のあんちゃんみたいなのが、どうして女王陛下のスパイになるんだと。それは、ガタイばかり大きいチンピラが、スカウトされて、色んなことを教えられて、イギリスの立派なスパイになっていくというのがやりたかったらしいんですよ。」

—まさにこれですね。腑に落ちる話ですね。

町山智浩さん
「企画とかも考えて行ったんですけど、コンペで落ちてるんですよ。『じゃぁ、俺がやるよ』ってことで、原作者のマーク・ミラーって人にこの話を作ったらしいです。復讐戦なんですよ。」

—復讐になってるのかわからないですけどね。

町山智浩さん
「わからないですよね。最後の方とかすごいじゃないですか。『死に際でなんかダジャレ言わないのか。』『そういう映画じゃねぇから。』とかそういう映画って007のことですから。すごいなって思いますよ。」

—何を望んでいるんでしょうかね。その後の展開としては、マシュー・ヴォーンは何を望んでいるんでしょうかね。

町山智浩さん
「そりゃぁ、いつか007側が『マシュー・ヴォーンさん、監督して下さい』って言うのを待ってるんですよ。やりたい、やりたいってのを滲ませてるんでしょうね。」(会場笑)

—嫌がらせ兼ラブコールなんですね。

町山智浩さん
「この前撮った『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』あれは、完全に007のパロディーになっていた。どれだけ好きなんだ。好きで好きでしょうがないから悔しくて作ってるみたいなところある。」

—さっきお話ありましたけど、貧しい労働者階級の青年がスパイとして成長していく話ですけれども、これはやっぱり色んな意味で魅力があるかなと思うのですが。

町山智浩さん
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「これは色んな深い意味があって、イギリスって国は階層社会ですからね。労働者階級の人は貧乏で、教育も受けられなかったりするんで、60年代くらいまでずっとそうでしたからね。貴族との差がすごくあるんですけども、そういうものに対する怒りみたいなものが根底にあって、例えば主人公のエグジーは、本当に貧しい人達が住む低所得者集合住宅に住んでいるんですよね。それが見出されて、彼によって『人間は生まれじゃないんだ、育ちなんだ。マナーはマンを作るんだ。Manners make the man.』って台詞を言うんですけれども、それがこの映画の思想みたいなところがあって、すごくはっきりとしたメッセージが出てますよね。それは、原作者のマーク・ミラーって人が、スコットランドの本当に貧乏な人で、家族が兄弟が7人かなんかいて、お母さんがかなり若い頃に死んじゃったりして、貧乏すぎて大学にいけなかったんですね。だからすごい悔しかったの。だからこれまで彼が作ってきた映画も『ウォンテッド』とか『キックアス』もそうですけど、恵まれない貧乏な人が自分の夢として諦めていた人になるんですね。『キックアス』もよくみると主人公貧乏人なんですよ。ブルックリンに住んでいて、その彼がスーパーヒーローになるって話だし、『ウォンテッド』は、N.Y.のヘタレ社員で、みんなから馬鹿にされている男が実は世界的な組織の御曹司だったという話で、世間から負け犬 Loser って思われている人が大逆転してヒーローになっていくって言うことをしつこくやり続けている。彼にはマーク・ミラーの気持ちが込められていると思います。」

—すごい執念を持っているんですね。

町山智浩さん
「面白いのは、彼が着てる服っていうのは、スポーツファッションが多いんですけども、『FRED PERRY』っていうブランドの服が多いんですよ。『FRED PERRY』っていうのは、胸に月桂樹がついていてスポーツファッションですよね。それは、イギリスのカーナビ・ストリートってのがあるのんですけどもロックやパンクの発祥の地でもあるんですけども、若者が集まって貧乏な若者が酒飲んだり、ナンパしたりするところなんですけども、そこで『FRED PERRY』売ってるんですね。地図書くと、道路があって、ここら辺りがリージェント・ストリートになるんですが、リージェント・ストリートのこっち側の脇道に入ると『FRED PERRY』があるソーホーっていうイギリスの若者地帯ですよ。原宿みたいなものですね。このリージェント・ストリートを1本入ると、そこにサヴィル・ロウっていう言うイギリスの最高の『背広』の仕立て屋さんがあるんですよ。その距離わずか1分か2分です。そのリージェント・ストリートの西側か左側かでまったく身分が違う。その辺のイギリスの残酷さ、こっち側でスーツ着てる人と、こっち側で貧乏な人と年収が1億円ぐらい違う。それを道路を渡って、あっち側に行くって話しなんですよ。」

—1本の道をね。確かにそうですよね。

町山智浩さん
「サヴィル・ロウって言うのは、背広の語源になったイギリスの最高級の仕立のならんでいる『ロウ』っていう小道があるんですけども、そこでスーツを作ることで紳士になっていく。」

—スパイ映画で昔から見ていたライターとか小物も魅力的ですよね。

「はいはい。秘密兵器ですね。傘ありますけど60年代のイギリスのTVドラマで『アベンチャーズ』ってのがありまして、『アベンチャーズ』って今、変な緑色のデカイ人とかスケベな金持ちとかを『アベンチャーズ』と思ってますけど(会場笑)、『アベンチャーズ』って言うのは、元々イギリスのTVシリーズだったんですよ。そこでの主人公パトリック・マクニーが持っているのが固くしぼった傘なんですね。絶対その傘ささないんですよ。日本でのテレビタイトルは、「おしゃれ(秘)探偵」って言うとんでもない邦題だったんですけど、いつもそれを武器として使って、拳銃を持ってる敵とかを傘一本でやっつけちゃうのが、イギリスの人気のあるTVシリーズだったんです。その真似をしているんですね。ちなみイギリスの人は、雨が降ってもめったに傘ささないですね。これファッションと思ってるんですね。イギリスではしょっちゅう雨降るんですね。いつも空曇っていて、だからいつも備えて傘持ってるんだと思うんですけどささないんですねこいつら。ビチッとバーバリーの傘とか持ってるんですけど、ひらかないでファッションなんですね。」

—今回はそれが開かれて・・・。

町山智浩さん
「開かれて防弾になってましたね。あと靴。靴を見て、『この靴には、昔、電話が入っていたんだよ。』って台詞があって、あれは60年代のアメリカのTVコメディーで、『それ行けスマート』って言うスパイコメディーがあったんですけど、あれで主人公が使うのが、靴の裏に入っている電話だったんですよ。その電話のしゃべるところが、かかとの裏についてるんですよ。だから、いつも電話で話す時に『汚いなぁ』ってやるんですよ。そんなところに、電話つけるってのが間違いだってギャグだったんですけど、その話だったんですよ。

—時間かかりますよね。

町山智浩さん
「汚いよっね。そういうネタをいっぱい言ってましたね。」

—あと音楽的要素でも笑ってしまうようなところもあったのですが。

町山智浩さん
「あれは、レーナード スキナード のフリーバードという曲で、あれはアメリカの野外でコンサートとか、田舎の方で花火大会とかがあったりした場合、そうすると必ず客が酔っ払って、『フリーバード、フリーバード!』って言うんですよ。どこに行っててもやってて、フリーバードをかけろって言うんですね。そのくらいアメリカの田舎の人にとっては、君が代みたなもんです。それさえかけておけば俺は最高だぜ!っていう人がいっぱいいて、時々南部の旗を振ってたりする人達なんですよ。だからあの曲をかけている。」

—ラストは、ゲスな感じありましたよね。

町山智浩さん
「マシュー・ヴォーンが、なんであんな下品なオチにしたのって聞かれて007シリーズって昔は下品だったんだよ。それをやってるんですね。あと、マイケル・ケインもジェイムス・ボンドのプロデューサーが抜けて作ったハリー・パーマーシリーズと言うリアルジェイムス・ボンドシリーズがあってその主人公なんですよ。ハリーっていう名前は、ハリー・パーマーから来ていて、この眼鏡は、ハリー・パーマー眼鏡と言うんですよ。一応、そっちの方にもオマージュが入っています。」

数々のスパイ映画のオマージュ、強いアメリカ社会への風刺、選曲の背景等、町山智浩さんならではの映画「キングスマン」の裏側に迫るトークに客席は、始終爆笑と感嘆の声。大盛況のうちにイベントを終えた。

映画『キングスマン』は、9月11日(金)より全国ロードショー中!

詳細は、公式サイトへ
http://www.kingsman-movie.jp/

映画『キングスマン』

監督:マシュー・ヴォーン 原作:マーク・ミラー 製作:Marv Films

出演:コリン・ファース、サミュエル・L・ジャクソン、マーク・ストロング、タロン・エガートン、マイケル・ケイン、ソフィア・ブテラ、ソフィー・クックソン、マーク・ハミル

配給:KADOKAWA (C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation  R+15

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